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東京高等裁判所 昭和42年(う)1192号 判決 1967年10月02日

被告人 聯友企業株式会社 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部、被告聯友企業株式会社及び被告人閻承釣の平等負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告会社及び被告人の弁護人水上学提出の控訴趣意書記載(但し同控訴趣意書中二、の「ところが右判決理由中」乃至「追徴合計にはならない。」の部分は撤回)のとおりであるから、これをここに引用する。

控訴趣意二、について

所論は原判決は、大蔵技官斎藤英一作成の犯則物件鑑定書を証拠として本件輸入貨物の課税価格ひいては、関税及び物品税の各逋脱額並びにこれに対する各追徴価額を認定しているが、右鑑定書はその価額算定の正確性につき疑があり、これを証拠として本件罪責を問うた原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の疑があるというにある。

しかし、記録に徴し、原判決が証拠に引用している所論大蔵技官斎藤英一作成の犯則物件鑑定書の信憑性を疑うべき何等の形跡もなく、右鑑定書と原判決挙示のその余の証拠とを綜合すれば、本件輸入貨物の課税価格、関税及び物品税の価額、その各逋脱額がそれぞれ原判示の通りであることを含めて、被告聯友企業株式会社及び被告人閻承釣にかかる原判示第一、及び第二の各関税及び物品税逋脱の事実(及びこれに対する原判示各追徴価額)を優に認めることができ、当審における事実取調の結果(証人斎藤英一の供述)によつても、これを裏付けるに足りるから、原判決には所論の如き事実誤認の疑はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意一、について

所論は、原判決は、関税法第一一八条第二項により本件関税逋脱の犯罪にかかる貨物の没収に代る追徴を言い渡すに当り、各貨物の仕入価格に、関税額、物品税額のほか手数料(マージン)の額をも加算した価額に相当する金額を追徴すべきものとしているが、関税法追徴規定の律意に照らし、右追徴価額には手数料額を含まないものと解すべきであるから、原判決には右法令の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

しかしながら、関税法第一一八条において、犯罪に係る貨物を没収し、又はこれを没収することができないものの犯罪が行われた時の価格に相当する金額を犯人から追徴する趣旨は、単に犯人が現実に取得した不正の利益だけを剥奪せんとするに過ぎないのではなく、国家が関税法規に違反して輸入した貨物又はこれに代るべき価格を(犯人連帯の責任において)納付せしめ、もつて密輸入の取締を厳に励行しようとするに出たものと解すべく、従つて、同条第二項にいう「その没収することができないもの(又は没収しないもの)の犯罪が行われた時の価格」とは、輸入貨物につきその犯罪が行われた当時における国内卸売価格、即ち、当該貨物の仕入価格(到着価格)に関税額及び内国消費税額のほか、一般卸売手数料額(マージン)をも加算したものをいうものと解するのが相当である。されば、これと同趣旨において本件各追徴の言渡をした原判決の法令の適用は正当であつて、論旨は理由がない。

控訴趣意三、について

所論は、被告聯友企業株式会社及び被告人閻承釣に対する原判決の各科刑が不当に重いから、これを是正軽減されたいとの主張である。

しかしながら、記録にあらわれた本件関税及び物品税各逋脱の犯行の罪質、動機、態様、逋脱にかかる税額、不正利得額、被告聯友企業株式会社の経営状態、被告人の経歴、生活状況等諸般の情状にかんがみると、原判決の各量刑は相当であつて、右被告会社及び被告人がこの程度の刑責を負うのは已むを得ないところであり、所論の事由を参酌しても、これを変更軽減するに由がない。本論旨もまた理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告会社及び被告人閻承釣をしてその全部を平等負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯田一郎 遠藤吉彦 吉川由已夫)

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